渡辺みちたか(自民党・新宿区議会議員)official blog

新宿のミッチー。新宿区議会議員(自民党)。1985年12月生まれ。「渡辺ミッチー」こと渡辺美智雄・元副総理の孫。慶応義塾高等学校・慶応義塾大学・同大学院卒業。ベンチャー企業勤務、国会議員秘書を経て新宿区議会議員(2期)。区議会会派は自民・参政クラブ。

認可外保育園の保育料無償化に至るまでの攻防【新宿区】

 表題のとおり、区役所とのやり取りを書いていく。なお、「あの政策はオレがやった」というつもりはないが、筋道をつける一定の役割は果たしたと思う。それでも政策をやったのは区で、運動の主体は認可外保育園とその保護者である。

 この記事は、もし自治体になにかやってほしいと思っている人の参考や、議員って普段なにやってるんだ、と思う人に議員ってこんなこともやってますよと紹介の意味も込めて書く。なので、なるべくわかりやすく書くけど、内容はプロ向きかもしれない。

◆東京都で第二子無償化が始まり、「新宿は無償化してない」の声

 2023年9月から0-2歳の第二子以降の保育料無償化が始まった。実施後、私も保護者から歓迎の声を聞いていた。

 しかし、2024年4月に新宿区内の認可外保育園から相談があった。いわく、
「うちの園では豊島区の第二子児童がいる。豊島区は第二子無償化しているので、この子は保育料は払わなくていい。だけど、新宿区は無償化していないので、新宿区民の第二子は保育料を払っている。同じ園内でこういうことが起こっている」、「調べてみると23区中、18区が第二子無償化している」とのことだった。

 東京都の第二子無償化政策は、都が制度の大枠と財源をつけ、各自治体が細かな制度設計をする仕組みなので、自治体間で差がついていたのだ。

 私は、新宿区の園で、新宿区民だけ保育料が払っている点や、新宿区が遅れているのは釈然とせず、さっそく区役所の担当者と意見交換をした。

◆「もうやっています。むしろウチは先進区です」という言い分

 ところが区役所は塩対応だった。議員が役所の政策に口を出すとき、区役所はできない理由を並べがちだが、この時も、

「(もろもろの助成は)待機児童解消のためにやってる。新宿はもう待機児童はゼロが続いていて、助成の対象者を拡大するつもりはない」

「そもそも認可外保育園は設置時に定員など区と連携をしていない。設置も撤退も自由」

などと言われたが、なかでも驚いたのは、

「新宿区ではすでに第二子無償化を行っていて、実績もある。しかも、助成額は23区で最も高くて、制度的にはむしろ先進区だ」という言い分だった。

 この言い分は我々からすると屁理屈で、役所からすると鉄壁の理屈だった。

 たしかに新宿区でも認可外保育園に通う児童は第二子無償化の補助の対象であった。補助される金額も高い。だけど、その厚遇を受けるためには条件がついていて、「認可保育園に応募していて、落選し続けている」必要があった。

 新宿区では待機児童はゼロなので、基本的にこの条件に該当するのはレアケースである。(2023年度の実績は19人、約350万円)

 役所からすると認可・認証と認可外と2つを政策的にわけてきたので、この大枠をまたぐ政策をやりたくない、というのが本音だなと感じた。だとすると相当ハードルが高い。

◆カタマリをつくってもらう

 役所の反応が意外なほどかたくなだったので、園には「かなりハードルは高そうです」と伝え、ひとつの園、一人の保護者の意見では弱いので、「同じ悩みを抱える園に呼びかけてカタマリ(業界団体)を作ってくれませんか」と依頼をした。

 園側の反応は早く、2か月ほどで区内十数の認可外保育園を会員とするグループを結成した。そのグループで意見集約をして、区に要望書を提出してもらった。

都知事選で小池知事が「第一子無償化」を公約に

 こんなゴタゴタをしていた2024年は都知事選イヤーだったが、そこで小池知事が第一子無償化を公約に掲げた。これは新宿区内の認可外保育施設にとってはネガティブサプライズで、第二子の無償化は園が一部負担をすることで何とか乗り切ろうとしていたが、第一子について新宿区だけが無償化されなければ、他区の園や認可・認証園との差が一層大きくなってしまうと危機感が高まった。

 こうした懸念を、区役所の最高幹部との意見交換の機会に伝えたが、やはり、難しそうな反応だった。ただし、東京都が費用の一部(2.7万円まで)を10/10補助している旨を説明し、「都10/10の部分は区の財政が痛む話ではないのだから、せめて2.7万円まではやってほしい」だけは、少しだけ反応が違ったのは記憶している。

 区は我々が難色を示す政策(これはムダなんじゃないかと思う政策)について従来、「これは都の10/10ですから」と言って押してきたのでお互い様だ。この話は「都」というキーワードに区は弱そうだと嗅ぎ取った私は、以後「都の方針では」、「都の要件では」を意見の中心部分に据えることにした。

◆1月の都知事査定で認可外保育施設への第一子無償化が決まる

 東京都では毎年12月の末から1月の頭に、翌年度(2025年度)の予算の知事査定が行われる。知事査定が終わるとそれが来年度予算案になる。1月の頭に都議経由で知事査定の結果をゲットし、即・区役所に伝えた。知事査定では、新宿区にとって、都の第一子無償化がいまの枠組みで行われるか、新しい枠組みで行うかがキモであった。知事査定の内容をみると、都は従来の枠組みを拡充して行うことが分かった。

 区にはゲットした資料を渡すととともに、こう伝えた。

「このままだと、ほかの区では認可外も含めて第一子も無償化が達成されますが、新宿区では無償化されませんよ」

◆党内の根回し

 話は前後するが、議員がひとりで動くよりも、せっかく自民党という区議会第一会派に所属しているので、党の政策としたほうが影響力があるだろうと、党内の根回しもすすめていった。会派幹事長らに背景と状況を説明し、区との意見交換でも同席や同調をお願いした。

 また、さまざま党内手続きを経て、区への予算要望や、2025年2月の会派の代表質問に盛り込んだ(その際は、極端なことは言えず表現は多少マイルドになった)。

予算委員会での前向きな答弁

 毎年3月は区議会で予算特別委員会が開催される。2025年3月は委員になれたので(新宿区議会では4年の任期で2回予算委員になれる)、公式的に発言できる最後のチャンスと思い、入念に準備をして臨んだ。

 あいまいな答弁になっても食らいついてやると思い、ジャブを打つつもりで最初の質問で、
「(略)認可外保育園の助成は、認可保育園に落ちたことを補助要件から外すべきと考えていますが、いかがでしょうか。」

 と質問したところ、意外にも

「時期を捉えて、要件の見直しをしてまいります。(具体的には)東京都による、第一子無償化の時期をとらえまして、区内の待機児童の状況や保育環境の変化、東京都の動向を踏まえて、改めて適切な判断をしていきます」

 と前向きな答弁があった。答弁をいろいろ想定し、反論を準備をしていたのだが、この答弁を引き出せたのであとは全部カットした(正直めんくらった)。数か月前までの塩対応を考えると、方向転換するときはあっさりするんだなとも思った。

◆6月議会での補正対応

 「2025年9月の都の第一子無償化にあわせて」ということは、6月の区議会での補正予算で対応していくだろうと動いてきたが、結果として、6月議会に提出された補正予算案で、認可外保育園に通う児童の保育料について、いままで要件であった「認可保育園を受けていて落ち続けていること」が撤廃される案が示された。

 ついた予算額は9月からの半年間で1億1千万円、394人が恩恵を受ける事業になる。これまでの実績350万円、19人を考えると大幅な変更だ。

◆議員をうまく使ってほしい

 1年前は塩対応だったことが、無事に実現して大変うれしい。

 一連のアクションをするまでは、区と認可外保育園との接点はほとんど皆無で(検査などで接点はあったとしてもコミュニケーションをとる接点は皆無だった)、もし声をあげなければ、都の第一子無償化が始まっても今までの要件での運用だった可能性が高い。

 今回は利害関係者の園や保護者が声をあげ、即座に団体化(声を集約)し、区に要望し、議員もさまざま動いた。

 また、23区中ほとんどの区がすでに実行していた点や、東京都の制度から「待機児童問題解決のため」という一文が消え、「多様な子育てニーズを満たすため」と政策転換がされていた点、都が一部まで10/10費用を補助する点など、追い風も吹いていた。

 衆議院議員をしていた私の伯父が「政治は背中のツボと同じで、ツボを外しているとどんなに力をいれても全然よくならないが、ツボに入ると一気に進む」と言っていたが、まさにそれを実感した。

 政策実現に取り組む方はぜひ、志を同じくする、ツボを心得た議員をみつけ、うまく使って共に政治を前に進めていってほしい。

 

(参考:時系列)

2023年9月 第二子保育料無償化、東京都はじまる
2024年4月 認可外保育園から新宿区は無償化していない旨をきく。6月、園を視察
4月 区の課長級と意見交換(議会外)→「もうやってる」「影響大きい」と塩対応
6月 認可外保育園側に依頼。園や保護者など、仲間を集めて団体化してもらう
7月 都知事選で第一子無償化が公約となる
8月 団体化してもらった団体から区に要望書提出
8月 課長級と意見交換(議会外)「第二子に加えて第一子無償化で他区とかなりの差が付く」→塩対応
9月 区議会自民党の予算要望に認可外保育園への第二子無償化を盛り込む
1月 都の知事査定で「第一子無償化は認可外保育園も対象とする」と都議経由で情報ゲット。即、区に共有する
2月、自民党の代表質問に盛り込む。→ちょっと軟化している?
3月 都の方針を事前に伝える。港区の動きも伝える。
3月 予算委員会質疑。
6月 補正予算。都の第一子無償化に併せて区でも認可外保育園も対象(要件を撤廃)とする