
石破総理の所信表明演説でホストクラブの話がでた。今国会では悪質ホストクラブ対策のため、風営法の改正が審議される。この間、現場区の議員として関連の話をずいぶん聞いてきた。
ホストクラブ問題を難しくしているのは、ホストクラブにハマっている人が自ら望んでホストに通っているからだ。この現象はアルコール依存やギャンブル依存に近く、本人は通い続けたいが、当事者の周囲は心配して、やめさせたいと思っている。
たとえば、娘がホストに貢いでいると気づいた親が支援団体に駆け込み、両親、娘、ホスト、支援団体で話し合をすると、親がホストに説教する中、娘はうなだれながらホストの手を握り、「大丈夫、大丈夫」とホストを励ましている、なんてシーンがままあるが、いったいどうすれば解決するだろうか。ホスト中毒者に必要なのはホストやホストクラブへの罰則ではなく、むしろ「治療」なのではないだろうか。こんな時にむりやり引き離しても、また通い始めるのは目に見えていて、これは依存症なのだ。
「ホストクラブに通うため」新宿・大久保公園前にいる立ちんぼ(街娼)たちは、摘発されると、処罰とともに、支援の対象者でもあるので行政の支援が必要かを聞かれるが、希望する人は1割もいない。ホストにハマる当事者たちの多くは救済を求めておらず、保護を受けてホストに通えなくなるくらいなら、体を売った方がいいと考えている。
彼女たちのホスト通いをやめさせようとすると「自分の稼いだ金を、自分が使って何が悪い!」、「ほっといてくれ!」と開き直るが、これは男でも同じで、どうみてもヤバい商売女に入れ込んで、周りが店に通うのを止めようすると同じセリフを吐く。
男女で違うところは、男が風俗嬢やクラブホステスや頂き女子に貢いで会社を潰したり、横領をすると世間は「バカな男だなぁ」としか思わないが、若い女性がホストにハマって風俗堕ちするとホストが逆に裁かれる(ようになる)。ここには男女の非対称性がある。
◆ホストという「居場所」から依存症に
かつてどっぷりホストにはまった元当事者のなかには「あの頃は頑張ってたな……」とホスト通っていた過去をしみじみ語る方や、「ホストがいなきゃ自殺していた」と言う人がいるのは事実であり、あるホストは「風俗嬢の心をトリートメントしてるのは俺たちだ」と主張していた。また、報道やSNSでは一般女性の風俗堕ちばかりがクローズアップされているが、もともとホストクラブには数多くの風俗嬢通っている。一部の人たちにとって、ホストクラブが「居場所」になっているのだ。
結局のところ人間はひとりでは生きていけず、どこかに居場所が必要だ。それが家庭なのか、友達なのか、仕事なのか、サークルなのか、なじみの店なのかは人それぞれだけど、生きていくには人とのつながりが極めて重要で、孤立した状態で酒やギャンブル、ホストに逃げるとあっという間に依存症になってしまう。
悪徳ホストはこのことをよく知っていて、客に親や友人などの人間関係を切らせ、「頼りはオレだけ」と自分を唯一の存在にさせる。客がもっている唯一の人に捨てられたくない思いや、唯一の人のために頑張りたい思い、唯一の人に選ばれたい思いを悪用して、高額のツケを作り、払えなくなったら風俗や売春で稼がせて、それを巻きあげる。風俗産業の従事者は親や友人には言えない悩みを抱えていて、心を許せるひとはホストだけで、ますます依存を深めていく。
◆悪質ホストの処罰・法改正
今国会で審議される風営法改正はこの後半部分を規制する。政府原案は、恋愛感情で客を依存させたり、判断できない状態で高額な酒を売ること、取り立てで「実家に行く」と脅したり、売春や風俗で稼がせることを禁止とする。法改正で悲劇や悪質ホストクラブがなくなればいいなと思うが、同時に違和感もある。もちろん悪質ホストを血祭にあげて、ホスト業界全体の営業手法がマイルドになればいいが、法律と罰則を作っても、色恋で依存させたことを果たして立証できるのかと思うし、もっと根本的なところで、法律と罰則では客が自ら望んでホストに通うことは防げないからだ(客はホストしか居場所がない)。
私には2人のちいさな娘がいて、もし将来、ホストにハマってしまったら、と考えたことがある。きっと全力でとめるだろう。だけどハマっている最中にとめることはできないだろうし、むしろとめる方が燃え上がってしまうかもしれない。だからできる限りそうならないように家庭に居場所を作って、万が一ハマってボロボロになったとしても戻ってやり直せるような家でありたい。ホストの話の根本は治安や犯罪の文脈ではなく居場所の問題だ。
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