しばらく前にTwitterで話題になっていた漫画、「アスカノ」こと、『明日、私は誰かのカノジョ』の5巻~9巻を読んだ。この巻(4章Knockin'on Heavens Door)は、女子大生の萌がぴえん系女子のゆあとの出会いをきっかけにホストにハマっていく様を描いている。このエントリーではこの漫画を通じて、ホストにハマる根本原因と、解決策を考えていきたい。
ネタバレ含むあらすじ
女子大生の萌は歌舞伎町のぴえん系女子のゆあと知り合ってホストクラブに行く。そこでホストの楓(かえで)と出会い、巧みな営業とタイミング、そして接客態度によって恋愛感情を抱く。萌はホストクラブに通うようになるも、高まる感情と反比例するようにお金が無くなっていき、風俗で働きだす。やがて友達とのつながりも希薄になり、大学もやめ、ホスト沼の深みにはまっていく。楓のバースデーのため130万円の軍資金を作るも、楓の誤爆LINEと馴染みだった新宿2丁目のバー・TRAPの店長からの連絡がきっかけとなってホスト通いをやめて、実家を頼りつつ社会復帰を目指す。
客とホストの関係:恋愛感情だけではない
アスカノが描いている、客がホストに抱く恋愛感情とそれ以外の気持ちや、客同士の煽り合い、SNSやホスラブ掲示板での暗闘はリアリティがある。この物語は萌がホスト沼から抜け出せてよかったね、というハッピーエンドの裏で、ホスト遊びをし続けるぴえん系女子のゆあがいる。むしろ、この話の本当の主人公はゆあで、彼女こそ、ど真ん中のホス狂でホスト遊びの神髄を味わっており、歌舞伎町で問題となっている諸問題を背負っている。ゆあは毒親から歌舞伎町に一人で逃げてきて、強いメンタルと弱いメンタルを併せ持ち(ようは不安定だ)、腕にはリスカ跡が無数にあり、いやなことがあればオーバードーズに走るデリヘル嬢だ。そんなゆあが担当ホストのハルヒに抱く感情は複雑だ。恋愛感情があり、独占したいが独占できないもどかしさ、ムカつく感情、売り上げを支えたい思い、そしてなにより捨てられたくない思いが混ざり合っている。この点が、恋愛感情のみでホストと繋がっていた萌とは全く違う。
萌とゆあの世界の違い
社会復帰に成功する萌と、ハルヒと切れてもホスト遊びから抜け出せないゆあの違いは、居場所の有無だ。萌は、理解ある親がいて、友達がいて、馴染みのバーのTRAPがある。それら全員に支えられて社会復帰する。すなわち、ホスト以外にも居場所があるということだ。一方のゆあは帰る実家はなく、友達もおらず、あるのはホストだけだ。お金さえ払えば、優しくしてくれて、心地よい環境を作ってくれるホストは欺瞞の関係だとゆあもわかっているが、ほかに居場所はない。萌がホストにハマる過程で友達やTRAPから遠ざかっていく描写も、ホストが唯一の人間関係にして、唯一の居場所になっていくことを意味している。ホストにお金はかかるが、逆に言えば、お金さえあればよく、ゆあはホストをやめることもできないし、お金が必要だから、体を売ることもやめることができない。
男の通うクラブやキャバクラと比較されがちなホスクラだが、明確に違うのはその関係性で、物語中、ホストが客に「今日はどんくらいいける?」と聞いたり、翌週に地方風俗に出稼ぎにいくゆあに「来週は頑張ろうな」というハルヒや、客が「私はハルヒを支えることしかからできないから、今月も頑張るね」というお金をあからさまに前に出すコミュニケーションは男の通う店ではない。
キャバクラやクラブも恋愛感情や、居心地の良さを求めて通うものだが、ホスクラはそれに加えて、ホストと客で協力してホストのランキングを上げる、客がホストの売り上げに貢献するという、共に目標に向かって進んでいく充実感・達成感も提供している。この辺りはAKBの押し活、CDを買いまくってアイドルとファンとで一緒にランキングを上げていくという感覚に近い。CD1000枚買うオタクがエライのと同じように、高い酒を入れて売上に貢献する客がエライのだ。歌舞伎町周辺を走るアドトラックにはホストの肩書として「月間売り上げ1000万」や、「一億円プレーヤー」とデカデカと書いていて、既存客からすれば、あいつは私が育てた、という思いがあり、また人気が人気を呼ぶ商売だともいえる。
では行政が居場所を提供できるか。いや、できない。
ホストクラブが問題化されているが、はたして行政がどこまでかかわれるのだろうか。SNS上で問題になっているのはホストの売掛商法が問題で~というところだが、アスカノを読んでもわかるように、この話の根本は居場所の話だ。どこにも居場所のない女性と、お金を払えば心地よい人間関係と、居場所を提供してくれるホストクラブの需給が合致している。ただし、ホストクラブにハマりすぎると女性にとって経済面で持続可能ではなくなり、やがては身を滅ぼすことが話題(問題)になっている。では行政がホストクラブに代わる、居場所を提供できるだろうか。それはやっぱりできないだろう。
行政が税金をもって提供できる居場所とは、衣食住の提供をするが、そのかわり規律を求める居場所だ。でも彼女たちが求めているのはそういう厳しい居場所ではない。規律を緩くすればいいのかもしれないが、「元ホス狂の人(あるいは予備軍の人)に衣食住を提供して、かつ好き放題すごせる場所*1」は今度は納税者の理解が得られない*2。そうなるともはや行政的には手詰まりだ。(行政ができることは過去のエントリー参照のこと)
訴求力のあるストーリーとNPO
行政の隘路というべき部分だが、解決への糸口もある。この問題はNPOの本来業務なのだ。この話は訴求力のあるストーリーがある。典型的なのはゆあの背景で、片親、毒親で、ヤングケアラーで、ネグレクトを受けて家庭に居場所がない、地元の友達にも煙たがられる、仕方なく繁華街にでてきている。そういう人たちを支援しましょう、というストーリーは訴求力がある。賛同者からお金を集めて、行政ではできない彼女寄りの一歩踏み込んだ支援をすればいい。来年4月から「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律*3」が施行され、NPOへの期待が条文にも込められており、行政からの支援も手厚くなる。これまでのような補助金や、場所の提供などに加えて、行政は資金調達のバックアップも行うべきだ。
行政であれば、売春をしていれば摘発しなければならない。オーバードーズも違法薬物を持っていたら逮捕しなければならない。未成年なら補導(そして家庭に連絡)しなければならない。そういう部分でも行政の支援は柔軟さが欠け、NPOの方が寄り添った対応ができる。若い女性の支援団体については昨年SNSを中心に炎上騒動があったが、新宿ではまっとうなNPO・支援団体が活躍できる環境づくりをしていきたい。
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