渡辺みちたか(自民党・新宿区議会議員)official blog

新宿のミッチー。新宿区議会議員(自民党)。1985年12月生まれ。「渡辺ミッチー」こと渡辺美智雄・元副総理の孫。慶応義塾高等学校・慶応義塾大学・同大学院卒業。中小企業勤務、国会議員秘書を経て新宿区議会議員(2期)。会派は自民党区議団。

砂川文次『ブラックボックス』(芥川賞)

 20代、30代の誰しもが思う「このままでいいのか」という焦り、でもそれをどう解決していいかわからない苦悶をうまく描いた作品。私自身、主人公のサクマと立場が同じで、いまの仕事をコツコツ積み重ねていっても、昇給や安定にはつながらないので、その焦りや不安はよくわかる。
 主人公は焦りの蓄積と、ときどき爆発する性格が災いして刑務所に入ることになるが、その刑務所の生活の中で初めて積み重ねてゴールを目指す道(地道に1日1日を過ごせば最後は出所できる)を知る。時間と若さ体力を切り売る毎日とそれに対する焦り、からの、心の底で望んでいた積み重ねる生活が始まるところまでを描き切ったのはさすが。主人公は刑務所を出てからが本当の本番なのだろうと思うが、きっと刑務所では普通よりちょっとダメな受刑者として、刑期満了までなんとかやっていけるのだろうと感じさせる。
 作者は場面が変かわると、その場面に合わせた雰囲気も変えて書くのがとてもうまく、前半部のメッセンジャーでは「とにかく自転車を漕ぐ仕事」というなんとなく想像ができる仕事をのびのびと、中盤以降の刑務所生活はまったくイメージがつかない世界を、嫌味なく説明を随所に加えながら描いている。特に最終版、懲罰房から出た後の作業中のある事故から、主人公が「おもむろに手を上げて」からが転機になるが、この時から光が差し込むようなささやかな明るさが文にあらわれており、秀逸だった。
 偉そうに感想を書いてごめんなさい。でも、とても楽しめ、考えさせられ、そして文章のうまさにうなった。