渡辺みちたか(自民党・新宿区議会議員)official blog

新宿のミッチー。新宿区議会議員(自民党)。1985年12月生まれ。「渡辺ミッチー」こと渡辺美智雄・元副総理の孫。慶応義塾高等学校・慶応義塾大学・同大学院卒業。中小企業勤務、国会議員秘書を経て新宿区議会議員(2期)。会派は自民党区議団。

高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』(芥川賞)

 文藝春秋に掲載された芥川賞「おいしいごはんが食べられますように」。ストーリーが面白いのもそうなんだけど、私は純文学は単独では何の意味もない文字という記号を組み合わせて何をつくるか(綺麗な景色をつくったり、読者の心を揺さぶったり)を楽しんでいるので、そういう意味でも野心的な作品だった。

 一言でいうと、ライトな読みやすい文体で書かれた、テンポの早い現代社会を描いたホラー小説。

 序盤におじさん社員が席を離れた芦川さん(20代女子)の飲みかけのペットボトルのお茶を飲む。帰ってきた芦川さんに「一口もらっちゃった。苦いね」とわざわざ伝え、芦川さんはそれを聞いてから一口飲み、「ほんとですね」とコメントするホラー(?)シーンから作品に引き込まれた。


※※以下ネタバレを含みます※※

 

 特徴的なのは人物像のブレ。これは人物設定のブレとみるか、人間として深み(多面性)があるとみるのか、微妙なとこだけど、私はブレのように思えた。だけど笑っちゃうくらいにブレまくるので逆にそれが不快にならず、このブレは設定の甘さではなく確信犯で文学的な挑戦なんだと思った。
 たとえば芦川さんは繁忙期に19時までに帰らないと体調を壊すくらいに身体は激よわなのに、手作りお菓子を、翌朝いらないとばかりに自分のデスクの上に戻されても作り続ける鬼メンタルで、パートの女性陣からの支持率が高いはずなのに、早退して早く帰ったらお菓子つくって翌日持ってくるKY(いやお菓子つくってないで休めよ)で、お菓子は器用につくるのに実家の犬の世話はできないダメ女。
 一方、超KYだけど守られキャラの芦川さんの対極にいるのが、20代前半女子社員の押尾さんとアラサー男子の二谷。この二人はめちゃくちゃ(会話の)コミュニケーション能力が高い。押尾さんは二谷との会話が気まずいような展開になりつつあるとき、同僚の原田さんの口調をまねることで会話を笑いに変え、二谷は「手作りお菓子を食べる時のマナー」を読者に披露しながら実践している。これをアラサーの男子がやるのはレベル高い。でも、二人は彼女の手作りお菓子を毎回ぐちゃぐちゃにつぶしてポイするサイコ男と、毎回ごみ箱から手作りお菓子を拾って芦川さんの机の上に置くサイコ女でもある。なお、押尾さんも人物設定がブレブレで、責任感があってまじめなチア部出身の陽キャなのに、ごみ箱から拾ったお菓子を製作者の机の上に置き続けるという陰湿さがあり、最終出社日は感情を表にだしてて逆にピュア。二谷のキャラはブレることがない。ただ、恋人である芦川さんに対しての感情は二回読んでも全くわからない。
 世界観もファンタジーっぽさがあって、芦川さんが手作りのホールケーキを会社にもってきて喜ばれるシーンがあるけど、これは現実世界でやったらドン引きだろう。しかもケーキに対しての人数が多くて食べられない人がいるって実際なら超KYエピソードでしょ。この作品では、これがみんなにポジティブに受け入れられていて *1、こうした世界観も確信犯だと感じた。ちなみに私が議員秘書をしているとき、庶務スタッフに一番嫌われていた職場への差し入れは「スイカ」だった。理由は準備と片付けが圧倒的にめんどくさいから(残った分の保存や、再度食べる時の準備・片付けも面倒)。
 人物設定もぐちゃぐちゃ、主人公である二谷の芦川への感情もぐちゃぐちゃ、そんな中で食べ物を主軸に合理主義者(二谷・押尾)と、感情の生物(芦川さんその他)のせめぎあいという現代社会を描いてうまくまとめた(まとまってないんだけど、なぜか読後感がすっきりしている)作品だった。

*1:大衆小説ならリアリティがないとバッサリされるはず