なぜ、給付金は満額支給 or 全くもらえないのか
コロナ禍で、住民税非課税世帯や、低所得のシングルマザー世帯に給付金が何度も配られた。区議は「貰えた人」と「貰えなかった人」の一番近くにいる政治家なので、いろいろとご意見をいただき、給付金は不平等感がとても強い政策ということが分かった。例えば、住民税を少しでも収めている世帯は1円ももらえなくて、全く払っていない世帯は10万円満額貰える。当然、ぎりぎり貰えなかった世帯はお怒りになるわけだ。
で、ふと「なんで、所得に応じて金額に傾斜をつけて配らないんだろう」と思い調べると、システム的な課題があることが分かった。
レストランを予約する時や探すとき、グルメサイトを使ったことがある人は多いと思う。グルメサイトは検索機能がよくできていて、夕食で一人予算5000円から8000円、と金額で絞って検索することができる。ところが、自治体のシステムでは、ひとりひとりの税務(住民税)情報はあるのに、所得500万円から600万円で絞って検索して、該当者を抽出する機能がついていない。
というよりシステムの設計思想から、こういう検索を想定していない。自治体にとって最も重要なのは個人に紐づいた情報を正しく保管することで、Aさんを検索すればAさんの課税・納税情報が正しく表示されることだ。つまり、紙の台帳を鍵のかかった棚で管理している発想を、そのままシステムに落とし込んだ作りになっている。
自治体DXの狙いは「きめ細やかな行政サービスの提供」
だから、所得で区切って検索、該当者リストを抽出するためには別途開発が必要になる。なぜ住民税非課税世帯や、低所得のシングルマザーに給付金が配れるかといえば、この区分は他の行政サービスをすでに行っているために、システム上特別なフラグがついていたり、すでに該当者のリストを自治体が持っているからだ。
全国に1700以上の自治体があるが、それぞれでシステムを作っているので、データの持ち方はすべての自治体で異なっている。これを、システム連携できるよう、自治体のシステムの統一ルールを決め、そうしたシステムにすべての自治体が移行することを2021年に法律で制定した。すべての自治体は原則的に2025年度末までに、この自治体標準準拠システムへの移行しなければならない。
これにより、自治体間、自治体と政府、自治体と医療機関などのデータ連携ができるようになる。つまり、きめ細かいサービス提供ができるようになるのだ。例えば、年収が400万円で子どもが3人いる家庭、新宿区に転居後半年たった人、国民健康保険加入者で同じ薬を複数の薬局でもらっている人、のように複数の条件で住民を検索しリスト化することも将来的にはできるようになる。そうして細かい条件を決めておいて、「あなたはAとBのサービスが受けられますが、どちらにしますか」と行政の側からプッシュ型で情報提供する世の中を目指している。
政府や自治体のシステムでデータの持ち方が統一されれば、ベンダーによる改修も容易になり、サードパーティーによるアプリの提供もできるようになり、ビジネスチャンスもある。
標準準拠システムの移行については、このところネガティブな報道が散見される。でも、その先の未来に向けていまやらなければならないことなのだ。