子ども関係の事業拡充や予算が目立つ
新宿区の来年度(2024年度)予算案の特徴は子ども関連、教育関連に大きく予算がついていることだ。区長も予算委員会質疑の冒頭で今年度予算について、子ども関連政策に力を入れたとし、具体例として子ども団体の区スポーツ施設利用料の減額と、生活困窮世帯への学習支援の2つの新事業を挙げていた。
区の子ども関連予算増は、岸田政権による異次元の少子化対策の反映ともいえる。金額面では、保育園や学童クラブなどを含む子ども家庭費が昨年度比26億円増の350億円、区立小中学校関連を含む教育費は58億円増の212億円と大きく増額された。5,6年前は子ども家庭費は300億円、教育費は100億円の水準だったので近年予算が急激に伸びている。
来年度は保育所建設助成4.6億円、弁天町保育園建設5億円増、牛込第一中学校建設関連35億円などの施設の建設関連予算が金額の上では大きいが、サービスについても給食費無償化(12.3億円)、私立幼稚園実質無償化(1.7億円)、電子図書館導入(2.4億円)、学童クラブ定員拡充(18億円)、ベビーシッター利用補助(1.2億円)、子ども医療費(16億円)*1などが拡充や増額されている。
転換期に差し掛かる子ども政策
大きく伸びている子ども関連の政策だが、難しい時期も迎えている。新宿の特性として、再開発で住戸が増えたり、大きなタワマンがたつと地域の小学校や保育園がパンパンになる(例えば四谷と西新宿)。こうした地域では今後も投資が必要になる一方で、コロナ禍以降、急激な出生数の低下が新宿でも起こっており、区内の保育園、幼稚園の定員割れが起こっている。直近の10年は保育園整備を急いできて、先年ようやく待機児童ゼロを達成した。保育園待機児童ゼロの次は学童クラブに重点を置いているが、あと10年もたつと急速にだぶつく可能性がある。
保育園は、これまで国策として増やしてきた。これは本来の目的のためである子どもの福祉や、少子化対策のためというより、人手不足解消のための産業政策、つまり出産・育児による女性の退職を防ぐために保育園の緊急整備を行ってきた。いまでは出産や育児のため退職するということを東京ではほとんど聞かなくなり、産業政策としての保育園整備は成功したといっていいだろう。ところが、「早朝から夕方まで子どもを預けられる」保育園に重点を置いたため、小学校入学前の教育機関である幼稚園や幼児教室などが瀕死の状態に陥っている。これは子どもを保育園に取られてしまうことはもちろんのこと、保育士は月給改善や家賃にまで公的支援があるため待遇がよくなっており、競合する*2幼稚園が教員採用にとても苦戦している。今後、保育園で教育を手厚くする方針がでた場合は幼稚園や幼児教室は終わってしまうだろう。
子どもを育てる責任はだれが持っているのか
議会の議論を聞いていると、教育や子育てについて学校や行政への要求が大きくなっているように感じる。首都圏では、フルタイムで働く両親(あるいは片親)のみで子育てをするのが当たり前になってきた。平日夕方まで子どもの面倒をみるのは行政で、宿題のケアも行政で、夏休み中も行政で、不登校になっても別の手段を行政で……。 ある程度は仕方がないが、教育についても要求が高くなる。先日、ご子弟が通う区立小学校での英語教育についてのご意見を長々いただいたが、あまりの要求の高さに思わず、「塾に通うか、私立に通わせたらいかがですか」とお答えした。公立の学校の教育は学習指導要領の内容をクリアすればよく、それ以上を求めるのであれば私立に通わせればいい。ちなみに区立学校では校長の権限がとても強く、議員や教育委員会が言っても指導の中身は変わらないことがほとんどだ。また、校長が変わると方針転換をすることもある。区内の某小学校では突然校長が「目覚めてしまった」らしく、長期休みでの宿題なし、定期テストなしを打ち出して困惑の声を聞いたこともある。公立学校はいい意味でも悪い意味でも、(私立と違って)強い教育理念はない。
子どもの教育すべてを学校で教え、子育てすべてを行政が行うのは不可能だ。子育ての最終的な責任は家庭にある。かつては女性が子育てや家事などの家政を担ってきたが、国策として女性の社会進出を推し進めてきた。当然、家庭で手が足りなくなる部分が生じてくる。こうしたことで行政にできることは行政に、だが家庭の責任はなくなったわけではない。学校や行政への要求が大きくなっている今だからこそ、切り分けを意識して区政に臨みたい。