日本の政治では「高齢者偏重政治」、「シルバーデモクラシー」と言われて久しい。しかし、新宿区では本当に高齢者偏重で政治が行われているのだろうか。むしろこの10年は少子化対策がテーマで、むしろ現役世代が恩恵を受ける政策が充実したように思うのだが、どうだろうか。そんな思いでファクトチェックをする。
上記表*1を見てみよう。この10年間で、高齢者福祉費は63億円から75億円に19%増加した。それに対して子ども家庭費は200億円から320億円で60%の増加、教育費は43%の増で、歳出全体の増加分(34%)をはるかに上回る伸び率で歳出が増えている。上記の表には参考として高齢者がサービス受給者である介護特別会計・後期高齢者医療特別会計も入れたが、結果はさほど変わらない。つまりこの10年は高齢者向けではなく、子どもを持つ現役世代向けの政策の充実が行われたことがわかる。なお、この10年で区内の子どもの人口は2万5千人から2万9千人(13.8%増)に、高齢者は6万人から6万3千人(4.8%増)に増え、子どもが増えたが、その増分を加味したとしても子ども政策に手厚かったことがわかる。
一方で、「現役世代向けの政策」の難しさはある。以上の話はあくまで「子ども向け」政策であり、現役世代であっても子どものいない世帯は恩恵を受けない。では、子どものいない現役世代むけの政策とはいったいどんなものがあるだろうか。
現役世代の特徴は、働いていて、収入のある人が多数で、(子どもや年老いた親がいない場合)あまり行政に世話になるシーンが思い浮かばない。もちろん働いていない人もいるだろうが、その場合はすでに行政のサービスを受けているだろう。働いていたとしても病気をすれば病院に行くだろうし(そして健康保険を利用する)、失業すれば失業保険や家賃補助の対象となる可能性があり、そうした時は行政を頼りにするが、すでに紹介した通りのサービスがある。つまり行政が「公助」の役割を担う機関である限り、困るシーンの少ない(子どもを持たない)現役世代への政策というのは必然的に少なくなる。なお、こうした分野でも、氷河期世代の就職支援など政策が実施されつつある。サービスを受けられないのだから、徴収量を減らせ、という方向になり、減税や社会保険料の減額が目指す政策となる。
しかし、この主張には大きな穴がある。この減税政策が晴れて実現し、徴収量を減らし、歳出部分のサービスを縮小したとする。子なし・親が元気な現役世帯はもともとサービスを受けていないから、もちろんハッピーだ。しかし、結婚し、子どもが生まれたら、または親が倒れて介護が必要になったら、はたまた自分が年老いたら、交通事故で障害を抱えたら、そうした時に行政の世話になるのではないだろうか。情けは人のためならずなのである。
私は目先のことではなく、全体や先々のことを考えて分配を考えていきたい。もちろん歳出削減についても多大な関心を持っているのであしからず。